行き始めたのは今年の5月頃だったか。お店自体の存在
は随分と前から知ってはいたのだが、何故かしらどこか
入りづらい雰囲気があって、敬遠とまではいかないまでも、
気が付けば縁遠い存在になってしまう、そんな店と言う
ものがあり、この家康本店もその店の一つになっていた。
入ってしまえば、何をそんなに今まで逡巡していたのか、
と、あきれてしまう始末。でも、結構気に入ったこと
だけは言える。
お店は営業を始めて、聞くところによると、最初は屋台
を引くところかららしいのだが、今のこの場所にお店を
構えて46年にもなると言う。さすがに、長きに渡り営業
を続けてきたものの、元気そうに見える大将も寄る年波に
抗えず、8月の10日を以て、閉店するのだと言う。
大病にもなって、しばらくお店を閉めていたこともあった、
もうこの体はボロボロです、と大将は或る日ぽつんと言っ
た。僕に語りかけているようで、自分に言い聞かせるよう
に。だから、もう本当にオシマイ。
そんな問わず語りな言葉を耳にしたこともあって、不思議
なもので、いや、哀しいが確信めいた気持ちが心を揺さぶり、
いつまでもあると思っていたものが、ある日を境にきっぱり
忽然と目の前からなくなってしまう事実を前に、名残惜しい
と言うか、せいぜいその時まで、この空気を共有したくなって
しまったのも確かである。それからは、時間があれば、家康
本店に自然と足が向かったかな。
さて。閉店の前日、お別れを言いにお店に赴いた。夕方6時
過ぎの店内は、座敷は満席、カウンターもほぼ一杯である。
次から次にお客が入ってくるが、大将もおかみさんも、実に
すまなそうに断り続けている。店内は、注文が飛び交い、一人
焼き物に奮闘している大将に、仕込みを続けるおかみさん、
バイトのおねえさん、それにこの日は手伝いで娘さんが来て
いたのだが、まさにてんやわんや。なのに、律儀に対応して
いるのは頭が下がる。
初めて、そして最後の煮込みを頼んでみる。やさしく煮込まれ
た豚のもつ煮、やや甘めのみそ味なんだが、これが実にうまい。
毎回、焼き物に目を奪われて、煮込みを食べなかったことが
悔やまれる。焼き物は、この店のキラーコンテンツ豚足、そして
お気に入りの軟骨、この二つを頂ければもう十分だろう。味わい、
味わい、頂いた。
名残惜しいが、ここはさくっと切り上げよう。挨拶をしようと、
大将に手を差し出すと。ちょっと、まった、と大将が言う。いそ
いそとビールサーバーまで足を運び、グラスにビールを注いで、
どうやら名物のパフォーマンスを披露してくれるらしい。
えいっ!こぶしを握ったまま、左手を突き上げて気合を入れ、
グラスに入ったビールを、大きく開けた口に、一気にざぁーっと
流し入れ、空いたコップを頭上に投げて、くるくる落ちてくるそれ
を片手で受け取る。決めポーズを決めて、見事成功!
パフォーマンス直後の大将。ちょっと照れ気味なのが、かわいい。
後光が差している(笑)
お疲れ様でした。握手を交わして。
大将もおかあさんも、いつまでも、お元気で!
(ところで)
ググってみたら、このパフォーマンスがようつべにupされている
ので映像を貼っておきますね。