名残り酒 家康本店@安政町

こむこむ

2013年07月10日 18:21

どうしても足が向いてしまう家康本店さん。46年もの
長きに亘って営業を続けられたお店も来月10日を以て
店じまいとなる。最近通い出したばかりなのに、名残り
惜しさが先に立ってしまうのだ。

キリンラガーを、おかあさんに頼む。最初の一杯だけは
注いでくれる。こちらでは大瓶だ。冷えたビールを流し
こむ。

ざく切りにしたキャベツにたれがかかった大皿がまず出さ
れるのだが、この地方での流儀にもようやく慣れただろう
か。そのキャベツに七味を振り、それをポリポリとアテに
しながら、焼き物が焼きあがるのを待つ。おとうさんが、
厨房(と言ってもまるっきりオープンだが)中央にデンと
置かれたかまどで手際よく焼き上げるのを眺めながら、
キャベツをポリっと。そして、ビールを一口啜る。ふと
入口の方に目を向けると、おかあさんの背中が見える。
おかあさんが、串の出具合を見計らいながら、せっせと
手を動かしている。串を打っている。

お待たせしました。おとうさんが、焼きあがった串を皿の
上に置いてくれる。熱々を頬張る。最初に頼んだのは、タン
とハツに牛ハラミだったか。味付けは、もうおとうさんに
お任せなのだが、物によって塩だけだったり、さっとタレを
刷毛で塗ったものが出てくる。タレと言っても軽い感じかな。
グッと来るような重さがないので、何本でも行こうと思えば
行ける。

串もモツから、肉そのもの、魚介系に、野菜串もあって、実
にバラエティに富んでいる。特に、豚足や牛タンステーキは
おすすめの焼き物と言えるだろう。

しかし、常連さんとおとうさんとの遣り取りは、どうしても
来月に迫った閉店の話にどうしてもなってしまう。おかあさん
はその遣り取りを聞いているようにも、聞こえてないようにも
見えるが、実に見た目には淡々としたものである。

それにしても趣味を全く持たないと言うおとうさんはどうする
のだろう。しばらくはゆっくり体を休めることになるのだろうが、
おかあさんとあちらこちら旅行にでも行くのかな。

もう少し串を頼むとしようか。ついでにビールも。豚なんこつ、
鶏身を。改めて、おかあさんからお酌をしてもらい。

おとうさん、お客さんに勧められて、ビール一気飲みのパフォ
ーマンスを繰り広げている。小さく、拍手が店内に響き渡る。
グラスに注いだビールを、グラスに口を付けずに一息にカポっ
と飲み干し、更にそのグラスを頭上に放り投げ、宙にクルクル
クルっと回転させてすっと受け止めるのだ。それを勧められる
度に繰り返すのだが。

なんとも言えぬ気分がし、ビールをまた一口啜る。追加で足し
てくれたキャベツを飽きもせず、ポリポリ齧る。また一口。
戸口がガラリと開いて、新しいお客が顔を覗かせる。奥の
座敷では、送別会なのか、そのお客らしい。全員そろったようで、
串の大量注文が入ったようだ。さあ、今晩もこれから忙しさを
増すだろう。そうなる前に、余韻が余韻のままで止まってくれる
うちに、僕は引き上げることにしよう。

ごちそうさまでした。また何度でも来ますね。そう言ってみた
ものの、果たして何回来れるだろうか。ため息ともつかぬ
独り言を繰りながら、お店を後にする。名残り酒。


店名 家康 本店
TEL 096-324-8435
住所 熊本県熊本市中央区中央街2-26
営業時間 17時~
定休日 日曜日

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